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クリムゾンとドラゴンクエスト

はじめに

このページは、以前書いた「 ドラクエ以前の国内パソコンゲーム 」 を補足するために書いた「夢幻の心臓IIからドラゴンクエストへ」の続きです。

先の文章でも書いたように、ドラゴンクエストの初代やIIには、夢幻の心臓の初代やIIの要素がたくさん使われているわけですが、その夢幻の心臓を作ったクリスタルソフト(XTAL SOFT)は、その後、逆にドラクエの要素をたくさん使ったゲーム「クリムゾン」を発売します。

その後のクリムゾンシリーズとドラゴンクエストシリーズの変遷を調べてみると、いろいろと面白い点があるので、少し紹介したいと思います。

クリムゾン

「クリムゾン」の発売時期はドラクエ2と3の間の1987年11月。世界観はドラクエとは全く異なる世紀末風な世界で、登場する敵も仮面ライダーの怪人風や13日の金曜日のジェイソン風、北斗の拳の悪人風のような独特なものが多数存在します。しかし、ドラクエにわざと似せているんじゃないかと疑いたくなるような要素がたくさんありました。

まず、1人旅の途中から仲間が増えるシステムについてです。「夢幻の心臓II」では多くの候補がいる5人パーティ制でしたが、「ドラクエII」では固定の3人パーティ制でした。そして、「クリムゾン」も固定の3人パーティ制。あからさまに「ドラクエII」に人数をあわせていました。次に、日本語の表現について、「ドラクエ」は敵遭遇時などのメッセージに夢幻の心臓IIと全く同じ表現(「○○があらわれた」「○○をてにいれた」など)が使われていたわけですが、「クリムゾン」では店の呼び方にドラクエと全く同じ表現(「ぶきとぼうぐのみせ」「どうぐや」など)が使われていました。まるで「ドラクエが夢幻の心臓をマネしたんだから、クリムゾンがドラクエをマネしたっていいだろ!」と言わんばかりの類似っぷりです。

また、アイテム収集のイベントについて、初代「夢幻の心臓」には7つの紋章、「ドラクエII」には5つの紋章を集めるイベントがありましたが、それらの紋章には統一感がありませんでした(例えばドラクエ2なら、太陽、月、星、があるのに天体でそろえず、残りを、水、命、にするなど)。一方、「クリムゾン」では3つの石と5つの玉を集めるイベントがあり、石は「赤、青、白」と色で統一していました(ちなみに「夢幻の心臓II」の時点で赤緑青黒の4色の石がアイテムとして登場していて、海外の「ウルティマIV」では8色の石(stone)に高度な意味づけまでされていたわけですが)。一方、「クリムゾン」で集める玉の数はドラクエIIの紋章集めと同じ5つ。種類は「炎、氷、かげろう、光、闇」でしたが、画面上に「赤、青、緑、黄色、紺色」の色がついた球体の絵を表示することで統一感を出していました(まるでパズドラみたいですね)。そして、その後に発売された「ドラゴンクエストIII」では6色のオーブを集めるイベントが登場するわけです。もちろん、「オーブ」の日本語の意味は「球」や「宝珠」です。

それから、鏡のアイテムについて、ドラクエ2には写したものを真の姿に戻す「ラーの鏡」がありましたが、「クリムゾン」にも全く同じ効果を持つ「真実の鏡」がありました。ドラクエ2ではこの鏡を「子犬に変えられた仲間を人間に戻す」のに使うのですが、クリムゾンでは「人間に化けた魔物の正体をあばく」のに使います。ドラクエ2のパクリだろうと思わせておいて、その使い方を変えてきたわけですね。その後「ドラゴンクエストIII」で「ラーの鏡」が再登場するわけですが、その使い方は説明するまでもないでしょう。

もちろん、初代ドラクエが夢幻の心臓シリーズに似た要素だけにとどまっていなかったのと同様に、クリムゾンもドラクエシリーズに似た要素だけにとどまってはいませんでした

「ドラクエ」では全体マップの移動中にランダムエンカウントで戦闘になるわけですが、「クリムゾン」では全体マップの移動中には敵に会わないシステムになっていました。全体マップには街や城などと同じように山や沼などが配置されていて、そこに接触するとサブマップに入れるようになっていました。そして、その中で移動をしている間だけランダムエンカウントで戦闘になるようになっていました。移動と戦闘のメリハリをドラクエよりもつけていたわけですね。

戦闘システムについても、クリムゾンはランダムエンカウントのコマンド選択式でしたが、細かく見ると、同社の「リザード」のシステムをベースにしたうえで「夢幻の心臓II」の複数バトルの要素を加えたもので、ドラクエIIとは異なるものになっていました。もちろん、「リザード」も初代ドラクエより前に発売されています。

それから、ワープアイテムも秀逸でした。「シグナスワープ」と「ペガサスワープ」という2つのアイテムがあって、どちらもあらかじめセットした場所へとワープできるものでした。その基本的な使い方は、街にシグナスワープをセットした状態で冒険を進め、街へ戻りたくなったら、そこでペガサスワープをセットしてからシグナスワープでワープして街へ戻ることでした。こうしておけば、街で休息や買い物などをした後で、今度はペガサスワープでワープすることで、さきほど探索中だったところに戻って続きの冒険を中断した場所から再開することができました(シグナスとペガサスは逆でもかまわない)。現在、ハック&スラッシュ系のゲームでよく見るワープの仕組みに似ているかと思いますが、この移動システムはまだドラクエ3すら発売されていないこんな昔の時期から採用されていたのです。

ストーリーについて言えば、主人公の父親がクリムゾンという化け物を倒しに行ったまま戻らないという設定で、ラスボスの城で父親の死体を見つけて父親が残した情報をヒントに先へ進むという展開になっていました。初代ドラクエには主人公の父親の設定はなく、ドラクエ2の主人公の父親はずっと城にいるので、「おそらく亡くなっているであろう父親の意思を継ぐ」というクリムゾンの冒険の動機づけは、クリムゾン発売時点でのドラクエにはないものでした。

もちろんクリムゾンにも欠点はあって、マップの見える範囲が狭かったり、通常攻撃が当たりにくかったりする点はよく言われる所です。敵の本拠地の城では入口にしかワープアイテムをセットできないため、最後の城の難易度もかなり高いものでした。「ドラクエII」の後半も難易度はかなり高いですが、もし仮にそれをマネたのだとしたら、そこはマネしなくてもよかったかもしれません。

※念のために書いておきますが、似ている要素があるからといって必ずしも意識的にマネをしたとは言えない点には注意してください。クリムゾンとドラクエIIIの発売時期の差はそれほど長くはないですし、無意識に同じものを採用した可能性や、たまたま同時期に似たようなことを考えた可能性なども、もちろんあります。

クリムゾンII

「ドラクエIII」が発売された後、クリスタルソフトはクリムゾンシリーズの2作目、「クリムゾンII」を発売します。初代「クリムゾン」の50年後という設定で、このあたりもあからさまに「ドラクエII」と同じような設定を採用していました。

その一方で、「クリムゾンII」には「ドラクエII」や「ドラクエIII」にはない特徴がありました。以前の文章にも書いたので読んだ方にはおなじみかと思いますが、「マルチシナリオ・リンク方式」と名づけられた独特なストーリー展開です。クリムゾンIIでは、最初に勇者に名前をつけるのですが、ゲームをスタートしてもすぐにはその勇者は登場しません。ゲームは章立てになっていて、最初は後で仲間になる人物たちを主人公にした物語をひとつひとつクリアしていくことになります。そして、第5章で勇者が登場し、各地にいる仲間を集めて冒険をするという構造になっていました。この方式は、その後に発売された「ドラクエIV」にかなり似た(というか同じ?)仕組みなわけです。

※これについても、同じ要素があるからといって必ずしも意識的にマネたとは限らない点に注意してください。クリムゾンIIはドラクエIVの約1年前に発売されていますが、ドラクエIVの開発にはかなり時間がかかったようですから、当然、同時期に同じことを考えていただけの可能性もあります。それでも、もちろんクリムゾンIIの方が先にこのシステムを実現しているわけですから、ドラクエIVをこの点で画期的だったとかこれまでにはなかったなどと言うのは不適切です。

※ちなみに、ひとつのゲームを章で区切って物語を表現する構成は「メルヘンヴェール」(システムサコム,1985.8)(「章」ではなくVisual Stage I, II, …という表現でしたが)、複数の主人公にそれぞれストーリーがあって別々にプレイするオムニバス形式は「抜忍伝説」(ブレイングレイ,1987.11)、で採用されていました。PCゲームの世界では章立てとオムニバスという2つの要素は「ドラクエIII」よりも前に登場していて、これらを組み合わせるというアイデアを思いつく土壌はすでにできあがっていました。

それから、もし「ドラクエIV」の戦闘システムについてそれまでのゲームと比較して何か書きたいと思っている人がいるとしたら、その人には「ティルナノーグ」「クリムゾンII」「ドラゴンスレイヤー英雄伝説」「エメラルドドラゴン」あたりについて事前にきちんと調べてから書いてもらいたいところです。特に「ティルナノーグ」(システムソフト,1988.1)はタクティカルな戦闘でキャラクタの個性を表現している点が当時の雑誌などでも評価されていたので、AI風の戦闘システムの話題では欠かすことのできない重要なゲームだと思います(例えば臆病な感じのキャラは攻撃命令を出してもダメージを受けるとすぐ逃げ出したり、短気な感じだと撤退命令を出しても途中で反撃をはじめるなど、キャラクタの個性によって命令を聞かないことがあるのが人間っぽいと話題になっていました)。

おわりに

各ゲームの発売の流れをまとめると以下のような感じになります。

「夢幻の心臓」→「夢幻の心臓II」→「ドラゴンクエスト」→「ドラゴンクエストII」→「クリムゾン」→「ドラゴンクエストIII」→「クリムゾンII」→「ドラゴンクエストIV」

「夢幻の心臓シリーズ」や「クリムゾンシリーズ」を作ったクリスタルソフトと、「ドラゴンクエストシリーズ」を作ったエニックスは、互いに切磋琢磨しながらRPG文化を築いていったと言えるのかもしれません。


ファミコンRPGのパソコンRPGへの逆輸入的な動きについて

PCゲームでは、1980年代後半になると、上で述べた「クリムゾン」シリーズのように、独自の要素やPCゲーム文化の良いところなどは残したまま、一部にファミコンRPGの要素を逆輸入的に取り入れる動きが見られるようになります。

代表的な例として「ドラゴンスレイヤー英雄伝説」(日本ファルコム,1989.12)があげられると思います(以後「英雄伝説」と表記)。このゲームは、これまでARPGを作成してきた日本ファルコムが、ファミコンゲームぽい雰囲気をもつ一般的なRPGとして発売したものです。「英雄伝説」は、確かにドラクエなどに似た構成や要素をもつゲームです。しかし、細部を確認すると、実はドラクエ以前のパソコンRPGの要素を数多く採用したゲームでもあることがわかります。

例えば、「英雄伝説」ではオープニングとエンディングでビジュアルシーンが流れます。これは、1985年あたりからはじまる「PCゲーム文化の定番要素」ですね。

フィールド上であれば、いつでもどこでもセーブとロードができ、セーブスロットもたくさん用意されています。このあたりも当時のドラクエシリーズにはない特徴のひとつです。

地上での敵との遭遇システムは、ドラクエなどと同じようなランダムエンカウントに見せかけてはいますが、本質的には「ウルティマ」シリーズや「夢幻の心臓II」などで採用されていたシンボルエンカウントに近いものになっています。

具体的には「敵がリアルタイムに移動しているけれども、プレイヤーが一度ぶつかるまではその敵を表示しない」という手法が採用されています。この手法によって、ランダムエンカウントっぽいシンボルエンカウントという、かなり独特な遭遇システムを実現しているのです。

当時のドラクエシリーズでは戦闘時に敵のHPは表示されません。ですが、PCゲームでは「ザ・ブラックオニキス」や「ハイドライド」、「夢幻の心臓II」などのように敵のHPは表示されるのが一般的でした。そして「英雄伝説」でもPCゲームの風習にのっとって、戦闘時に敵のHPを表示していました。

マップでの移動について、ドラクエは背景がなめらかにスクロールしますが、実質的には「1キャラ単位」での移動になっていて、斜め方向への移動はできません。一方、「英雄伝説」はなめらかなスクロールができない代わりに「夢幻の心臓II」などと同様に「半キャラ単位」での移動ができ、斜め方向へも移動可能でした。また、移動速度は「英雄伝説」のほうが高速です。ドラクエと比べると、スクロールはガタガタですが、そのかわりに、キビキビ素早く動かせるわけですね。これも当時のPCゲームの特徴のひとつです。

また、「英雄伝説」では、レベルアップ時にポイントを各パラメータに自分で割り振るオプションが用意されています。このオプションを有効にすると、各キャラクタをどのように成長させるかプレイヤー自身が選ぶことができます。PCゲームユーザに多いと思われるこだわった遊び方をしたい人向けの要素を、オプションとしてきちんと用意しているわけですね。

それから、上でも書きましたが、「英雄伝説」にはオートバトルの機能が組み込まれています。ちなみに「クリムゾンII」(1989.3)では、自動で「戦う」が選択されるだけのシンプルなオートバトルの機能が導入されています。スペースキーの押しっぱなしでオート戦闘的な動作をする「夢幻の心臓II」(1985.11)も有名ですね。ドラクエでオートバトルが採用されるのはドラクエIV(1990.2)からですから、このあたりもPCゲーム文化の流れを感じられるところです。

※ただし、夢幻の心臓IIで実現していた「押しっぱなしによるオート戦闘」を、戦闘コマンド化するアイデアについては、ファミコンの「女神転生」(1987.9)のほうが、「クリムゾンII」よりも早いようです。

このように、ファミコンRPGっぽく見える「ドラゴンスレイヤー英雄伝説」の中にも、従来から続くPCゲームの要素は数多くふくまれているわけです。

日本の初期のコンピュータRPGの発展の流れを見ると、まずパソコンからファミコンへとRPGが伝わり、その後、ファミコンRPGで採用されたアイデアが逆輸入的にPCゲームに取り入れられる流れがあります。ですが、クリムゾンシリーズやドラゴンスレイヤー英雄伝説を見ると、この流れは必ずしも一方向的ではなく、相互補完的に発展しているということがわかると思います。

ドラクエをほめる人たちの中には、ごく一部だとは思いますが、ドラクエ以前のRPGを馬鹿にしたうえで、ドラクエ以後のRPGをすべてドラクエのパクリであるかのように言う人がいます。ですが、その指摘が不適切だということは、わかってもらえたのではないかなと思います。当時のゲーム開発者の人たちへの敬意を、ぜひ忘れないでいただければと思います。


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ドラクエ以前のPCゲーム関連の文章一覧
更新履歴
2024/1/8 文章一覧へのリンクを冒頭に追加。
2022/7/28 オート戦闘の流れの話に、ファミコン版「女神転生」の話を追加
2022/2/18 重要な部分を赤字で強調。表現の一部修正など。
2022/2/10 ドラクエからクリムゾンへいたる流れについて誤解をまねきかねない文章を書いている人がいたので、ファミコンRPGの要素がパソコンRPGへと逆輸入される動きについての文章を追加。
2017/8/8 クリムゾンの冒険の動機付けの話を追加。
2017/5/3 要約のページから参照できるようにIDを追加。
2017/4/15 ウルティマIVの石集めのコメントを追加。文章の細かい修正。
2017/2/22 クリスタルソフトとドラゴンクエストシリーズの関係をまとめた文章を作成して公開。